目的地の標高も様々ですが、そこに到達するまでの行程も様々です。高山病対策のための基準を提唱している、国際山岳連合医療部会(UIAA)は、「標高2,500〜3,000m以上の山旅では、今夜の宿泊地は前日の宿泊地よりも高度差が300m以上にならないように計画する」としています。つまり、標高2,500m以上の登山をする際は、一日に300m以上高度を上げたところで宿泊してはならない、ということです。
それを踏まえ、皆さんが計画している登山の行程をもう一度しっかり見直してみてください。国内でもUIAAの基準通りではない(場合によっては宿泊地がなくて、「できない」)場合がかなりあると思います。
今回のブログでは、国内の高所登山で代表的な山である富士山(3,776m)の登山中と、海外の代表的なトレッキングであるヒマラヤ(約5,000m)、そしてキリマンジャロ(5,895m)で体内の酸欠度合いがどのようになるか、比較した結果を紹介します。
体内の低酸素状態はパルスオキシメーター(図1)を使って、動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定すると簡単にわかります。

一般的に、低地でのSpO2は96〜100%が正常値だと言われ、低地の医療では90%以下になると在宅酸素療法が適用されます。それをもとに、図1を見てください。

富士登山、ヒマラヤトレッキング、キリマンジャロ登山、全てにおいてSpO2は90%を下回っています。そしてその低下度合いはヒマラヤ<キリマンジャロ<富士山の順に大きくなっているのがわかります。ちなみに、3つの登山中の2,500m、3,700m、4,700mでのSpO2を比較すると表1のようになります。

ヒマラヤよりもキリマンジャロが酸欠になりやすいのはなぜ?富士山は3つの中でも一番標高が低いのに、一番酸欠になりやすいのはなぜ?
それは、一日の高度上昇量が関係しています。ヒマラヤはUIAAの基準に近い高度上昇量なのに対し、キリマンジャロは一日に1,000mほど上昇します。富士山は2,500mまで車で移動して登山を開始します。これが原因で、体内の酸欠度合いが異なるのです。実際に、キリマンジャロは登頂者の75%が高山病症状を発症していた、とか富士登山では半数以上が高山病症状を発症していた、という報告もあります。もちろん、その日の体調によっても高山病発症リスクは変わりますが、もう一度行程表をよく見て確認し、しっかりと高山病対策を行うことをお勧めします。
高山病対策については、また改めて記載します。
安藤真由子