2011年12月05日

シンポジスト

来年6月に行われる第32回日本登山医学会学術集会のシンポジストを任されました。
大会テーマは、「登山医学を登山者に還元する」です。
http://www.jsmmed.org/pg99.html

その中で、高山病になる人、ならない人というシンポジウムで発表します。
演題は「低酸素室を使ったバイオフィードバックトレーニング(BFT)」。
BFTという言葉は聴きなれないかもしれませんが、実は難しいことではありません。ランナーやサイクリストなどが行っている心拍計を使った一般的な心拍トレーニング、自転車選手が行うパワートレーニングもBFTになります。

高所登山を目的とした場合、心拍数(HR)と血中酸素飽和度(SpO2)の値を確認しながら行うトレーニングがBFTになります。4000m以上の高所になると、歩くペースと呼吸のリズムにより、HRとSpO2が驚くほど変化します。
今日も、今秋にチョ・オユー(8201m)へ登頂してきたばかりの若手クライマーが弊社の低酸素室を初めて利用して、ゆっくり歩いているにもかかわらずSpO2が60%台に下がるのを確認し、自分が高所に弱かった理由がわかった!と喜んでいました。実際8000m峰を登っているとはいえ、BFTでもっと楽に歩ける、登れる方法を見つけることもできます。

そんなノウハウを学会では、発表させて頂きます。はっきり言ってこのようなノウハウは企業秘密ですが、登頂率のアップや高所での事故防止に繋がるのであれば、という思いで引き受けさせて頂きます。

安藤隼人
posted by トレーナー at 20:14| Comment(0) | 登山医学

2011年11月29日

山岳救助の実際と究極のトリアージ

土日で行われた山岳医認定制度の研修会で、奥穂高山荘の宮田氏にお越しいただき、山岳救助現場を想定したワークショップを実施しました。奥穂高エリアは、バリエーションルートの滝谷や前穂高、奥穂高、ジャンダルムを抱え、毎年多くの遭難が発生します。宮田さんは、私が9月に奥穂高山荘へ行った事をきっかけに、救助の前線を数多く経験している人と考え、私から今回の講習の趣旨を説明した所、快諾いただきました。

今回の研修では山岳医を目指す医師に、色々な状況でどのように判断・行動するかを議論していただきました。その一例を下記に示しますので、興味のある方は自分に置き換えて考えてみてください。長いので興味のない方は読まない方が良いです。

〈複数遭難同時発生トリアージ〉
○気象
・10月初旬 太平洋海沖を急速に発達した温帯低気圧が通過。同時に西高東低の冬型の気圧配置となり、大陸から寒気が入り、前日まで紅葉陽気だったアルプスは突然吹雪となる
積雪は40cm

○救助要請その1(要請時間夕方)
・夫婦2名のパーティーが山小屋まであと1時間(夏山の場合)の場所で、風雪と疲労で動けない
・遭難場所は奥穂高から前穂高までの吊尾根、夏道ルート上
・2名のうち女性は衰弱?低体温?のため呼びかけに応えない
・アイゼン、ピッケルもなければ、ビバーク用品(ツェルト、ガス)も無い

○救助要請その2(救助要請その1と同時刻)
・山小屋から2時間半ほど(夏山の場合)のジャンダルム直下で男女4名が風雪で動けない
・全員元気だが、アイゼン、ピッケルもなければ、ビバーク用品(ツェルト、ガス)も無い
・現場はバリエーションルート中で、ロバの耳とナイフリッジの馬の背を通過しなければ現場には行けない。もちろん帰ってくる時にも通らなければならない
・もちろん新雪およびアイスバーンのミックス状態
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9月のジャンダルム。これに雪がのっかっていると考えただけで・・・

○救助体制
・山小屋から冬山救助の経験があるスタッフは3名
・その後連絡を双方と取ろうとするが、携帯電話の電池が切れたのか、もしくは、意図的に切っている(バッテリーの消耗を減らすため)ため連絡とれず
・天気は翌日も回復する見込みはなく、ヘリコプターでの救助は難しい


これはシミュレーションではなく過去に実際にあったケースです。
このような状況では、医師の登山に関する技量も関わってくるので、冬山バリエーションも経験している医師のAグループと、そうでないBグループに分かれて検討していただきました。

Aグループは自分も救助に参加できる(自分の身の安全は、自分で確保できる)という判断で、3名の救助隊と医師の4名を2班に分け、医師班がその1の救助に向かい、その2に向かう救助者2名にはテントやガス・食糧を持って行かせるという意見でした。

Bグループは救助者3名を1名と2名に分け、その1の救助に2名、その2に向かう救助者1名にはテントやガス・食糧を持って行かせ、救助に参加できないので小屋で無線を聞きながら、救助隊に指示をするという意見でした。

実際には、医師がいなく救助者3名で救助に向かったわけですが・・・結果は
救助要請があった翌朝に、その1の要救助者2名が救助できました。この時の救助は映像として残してあり、研修する医師らもイメージと実際でどのように違うかを確認することが出来ました。

まずその1で意識がないという情報が入っていたので、もしかしたら一人はダメかもしれないという中で3名全員でその1の元へ行きます。要救助者2名はちょっとした岩の風下に傘をさして寄り添うようにうずくまっていましたが、二人とも意識ははっきりとしており自力歩行も可能でした。ただ、雪が既に深くなっていたので、救助隊がそれぞれを確保しながら山小屋まで連れて帰りました。

ではその2の要救助者4名はどうなったのか?救助には行かなかったそうです。
救助のエキスパートが考えた理由は、
@夏山でも3名で4名を救助することは不可能
Aナイフリッジを通過するリスクを負ってテントやガス・食糧を届けた場合、持っていった隊員が、一人だけ小屋に戻る事は出来ない→要救助者を増やすことにもなりかねない。
B雪が降ったとはいえ風さえ避けれれば、気温は氷点下数度(−10℃とかではない)なので丸1日くらいはなんとかしのげるから天候回復を待つ
という判断だったようです。また、基本的に隊員の単独行動はあり得ないので、3名は分けようがないので、助けられる可能性が高い方を救助に行ったということです。

これを聞いた時には、確かに医師らの意見は理想論かもしれませんが、現場はそうなんだなと勉強になりました。
この結果、4名はどうなったかと言うと、救助要請があった翌々日に天候が回復し、3名は38時間ぶりにヘリコプターで救助され生還したそうです。1名は救助を待ち切れずに行動してしまい、結果的に滑落して亡くなられてしまったとのことです。

この時に奥穂高山荘に止まったかたのブログを発見しました。
http://hyakumeizan.seesaa.net/article/25244002.html
この方のブログの最後に実際の報道記事も転載されています。
しかし、翌朝の好天も伺えます。

今回宮田さんにお越しいただき、救助の現場とそれに関われる可能性がある医師との接点ができ、大変良い機会となりました。日本の山岳救助はまだまだ発展途上なので、遭難を未然に防ぐ啓蒙活動と共に、救助をより迅速に安全に適切に行えるよう、出来ることをしていきたいと思います。

安藤 隼人
posted by トレーナー at 21:20| Comment(0) | 登山医学

2011年11月26日

山岳認定医研修会

今日は弊社で日本登山医学会認定山岳医研修会が行われています。10月の研修会は基礎的な研修でしたが、今回は野外・遠征活動医学の研修です。
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実際の遭難例を元に、もし自分がその場に居合わせたら、どのような診断・処置を行うかをワークショップ形式で学んでいきます。
今回扱う遭難例は、奥穂高近辺で発生した転滑落、低体温症。海外遠征で発生した凍傷、外傷からの国際医療搬送、突然死などです。

私は明日のセッションで。2008年に三浦豪太が高所性肺水腫を発症し生還した事例を、本人に代わり発表させて頂く予定です。

よく失敗は成功のもとといいますが、登山の失敗は即、死に繋がることもあるので、このような遭難事例からは多くのことを学ぶことができます。他の事例を傍で聴いているだけでも勉強になります。
それらを、低酸素室利用の方たちへ啓蒙し安全登山を続けて頂くことが、弊社の社会的役割と自認しておりますので、今後もこのような活動をお手伝いしていきます。

安藤隼人
posted by トレーナー at 11:56| Comment(0) | 登山医学

2011年11月02日

高気圧環境・潜水医学会

日曜日は、高気圧環境・潜水医学会に行ってきました。
高気圧環境・潜水医学は低圧環境を扱う登山医学と相反するようで、実は学問的に共通することが多いです。実際、凍傷や裂傷の治療に高気圧チャンバーが使われています。
最後の演者は日本人で8000m峰を最多の13座登頂している竹内さんの話もあり、教育講演も基礎的な話からで大変勉強になりました。
安藤
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2011年10月05日

山岳医研修会

先週末の土日は、弊社で日本登山医学会認定山岳医研修会がありました。その準備やらで先週からブログの更新が滞っていました。
認定医制度の実行委員をしているので、研修会前になるととても忙しくなります。
出欠確認、受講料管理、講義資料作成、受講証明書の作成・発行、会場準備、懇親会準備などの事務作業に加え、低酸素室での体験実習や講義も担当しているので、その準備もありました。
参加した医師は、20代から60代、内科医、整形外科医、麻酔科医、小児科医、脳外科医などなど幅広い方々で、30名にのぼります。

2日目に実施した低酸素室の体験が概ね好評で、高所登山の経験のない先生にSpO2が70台に下がった時の体験もしていただきました。一般的な医学ではご臨終レベルの酸欠ですが、4000m台では珍しくありません。机上の理論だけでは理解しにくい低酸素環境を弊社の低酸素室で体験していただきました。今後の診療に役立てていただけることが本望です。
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また急遽、小児の登山についての実際の講義も20分ほどさせていただきました。以前もブログで書きましたが、小児の特徴を理解しないまま、無理やり登山へ引っ張り出すことは、教育ではなく虐待ともいえます。現場ではそういう親が多く見受けられるので、一般登山者と接する機会のある先生方に現場での状況や、私自身の親子登山の例についてお話をさせて頂きました。

安藤隼人
posted by トレーナー at 10:53| Comment(0) | 登山医学

2011年09月17日

日本体力医学会

昨日から下関市で行われている日本体力医学会に出席しています。参加者も数千名規模で、体力医学という幅の広い分野について発表が行われるため、会場も6つで同時進行していて、聞きたい発表が重複してしまうとどちらかが聞けなくなってしまいます。私の関心のある分野が、低酸素環境、呼吸循環、バイオメカニクス、介護予防など多すぎるのも原因ですが・・・・。
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新たな見聞の発表を聞く事も重要ですが、大学時代の恩師や同級生、研究室の先輩後輩と会うのも楽しみの一つです。下関の美味しい魚をつまみながら、いろいろな情報交換ができ、今後の運動指導プログラムのヒントにつなげて行こうと思います。

安藤隼人
posted by トレーナー at 23:11| Comment(0) | 登山医学